第45話    「カーボン竿しのこだい」   平成17年02月13日  

東京のヘラ竿メーカーから、地元限定で中通しのカーボン竿「しのこだい」と云う竿が出されたのは昭和50年代の何時の頃であったろうか? 振り出し竿では竿を持ち歩きの時、竿が元竿の一本にすべてが仕舞われる為、仕舞い込んだ中の竿が元竿とで持ち歩きの時に揺れるて道糸が擦れて傷が付いてしまって切れ安くなる。そこで元竿の下に30cm位の袴を付けてこの欠点を無くした竿であった。
以前グラス竿の時代から庄内の一部の釣人たちによって道糸が絡まない色々な工夫が考え出されていた。とりわけ良かったのは一番最後の元竿の後ろに着脱が可能な3035cmの袴を付けて、中通し竿の欠点を逆手に取り竿をより長く使えしかも道糸が擦れないと云う工夫がなされたものが一番良かったように思う。グラス竿全盛の頃の昭和40年代後半に各メーカーが出向いて来て庄内竿を借りて盛んに竿の実験を行い、出来るだけ庄内竿に近いものをと改良に改良を重ねていた。その時にこの袴を使う方式を持ち帰ったものであろうと思う。しかし庄内竿の細身の元調子の竿に近いものを作ることは不可能であった。いくら科学万能の時代となっても庄内竿の様に細身の元調子で腰に粘りがあり、しかも適度に硬く魚が釣れるとしなやかに曲がると云う様な竿は科学の力ではやはり無理であつたようだ。

一番最初に地元限定で売りに出された小型黒鯛専用のカーボン竿の普及品は、エビスから発売された袴付きのシノコダイと云う竿であつた。中通しの竿で一番長い物で二間半、短いもので6(1)あり、細身で軽くヘラ竿とハエ竿との中間に位置する竿である。価格も二間半で2万円を割るくらいなものであつたから、当時の並継のカーボン製ヘラ竿の半分であつた。それで庄内の釣人たちは、我も我もと飛びつき多くの者がシノコダイと云う竿を買った。以前は並継のヘラ竿を自分で中通しに改造して使っていたが、道糸を通したまま携行するので5本継では5本の束になってしまうという欠点があり、持ち運びには大いに苦労していた。但しシノコダイと云う竿の弱点は、細身で軽いこと=肉薄であったから、当然大きな黒鯛には向かなかったこと(せいぜい30cm止まりで上手な人でも45cm)、ちょっとした傷が付くと其処から折れる事が度々あった。それでも価格的に安かった事もあり、少しずつ改良されながら、そのシリーズ十年餘と相当長期間続いた。しかし、メーカーが倒産するまでの間とうとう長い二間半以上のものは作られ仕舞いに終ってしまった。細身の竿はへら竿系統の肉厚の並継以外では大型の黒鯛には不向きである。最近では振り出し竿も某メーカーから庄内中通し竿のシリーズが販売されているが、4.8mまでは竿を軽く細身の小型黒鯛用、それ以上は竿を太くして大型黒鯛用に分けて販売されている。

シノコダイの発売以後、各メーカーから庄内地区限定で多くの庄内中通し竿が作られ販売されたが、すべて袴付きとなっている。しかし二間半(4.5m)の竿と云っても実際測って見るとその長さはない事が分かる。自作する為に買ってきた振り出し竿に、約一尺の袴を付けて測ってやっと実長で二間半になったと云う事が度々あるのである。振り出しの隠れている部分をすべて足してメーカーは二間半と云っているのではないだろうかと思う。

この竿は自分にとっての名竿と呼べる竿のひとつである。昭和50年代後半の729日、県境の吹浦海岸の磯場にあった小さなテトラに上り友と二人で釣をしていた。やがて陽が落ちて帰ろうかと思い帰り支度をした。その時南側で一発の花火が上がった。その日は毎年恒例の吹浦海水浴場の花火大会でそれをすっかり忘れて釣りに来ていたのである。きっと帰りの国道は車が一杯に溢れ帰れそうに無い。そこで仕方なく、また竿を取り出して釣りを始めた。その日は釣りはじめからずっとフグの猛攻に悩まされ続けていたので、鼻から釣れる事は眼中に無く花火を見ながら暇つぶしの釣をしていた。

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時も回った頃、テトラの際を狙ってタナを一ヒロと云う極く浅くした仕掛けに電子ウキをつけて其処に何回かマキエを打った。ハリスはフグの猛攻でかなりの傷が付いている。結び直すのも億劫でそのまま釣りを継続していた。たまたまウキを見ていた時、ウキが微妙な動きをした。取敢えず軽く合わせて見た。軽く指を当てていた同軸リールが音を立てて回転する。運良く魚が沖に向かって走ったのだ。棚は浅く下に潜られば、一発でカキの付いたテトラで根ズレ、沖に突進されて竿が伸されれば傷の付いているハリスが切れてしまう・・・!!

「どうする! どうする! 」と思いつつも竿を持つ手は、自然と無意識の内にテトラの上に立ち上がり、竿を目一杯に高々と上げて魚の動きに反応している。魚が走れば、糸を出し止れば道糸が切れぬように慎重に少しづつ巻く。その繰り返しは30分もかかったろうか? 次第に右手が疲れてくる。暗闇の中でやっと魚が浮かび、友に網ですくって貰う。ハリスがボロボロで嫌がおうでも慎重に上げた一枚であったので魚が何であるのかは分からない。

「オッー、クロだ!! 」と友の声が聞こえた。足場の良い所ですぐに確認する。軽く40cmはあろうかと思われる良型の黒鯛であった。細身の竿にボロボロのハリスで良く上がったものだと我ながら感心する。夏の黒鯛であったから、何とか上がったもののこれが秋の黒鯛であったら簡単にハリス切れて、あっと云う間にバラシで終わったことであったろう。この竿には、そんな思い出がいくつかある。自分にとっての竿の良し悪しは、ただ単に価格の高い安いではない事、自分好みの竿を如何に自分が使いこなせるかで決まるのであるとつくづく思った。それに一番大事な事は不思議と魚が付く竿と云うのがある。